「で、でも、俺は主の心がまだ、ココに残っているのを感じるんだ」
「僕は詳しくは知らないけど、この状態ではきっと駄目だと思うよ。君と彼は、この世界に囚われ続けているんじゃないのかな。彼の方は死んでも尚、君の事が心配で心だけが離れられないのかもしれないし……死んでも利用され続けるなんて、あまりにも可哀そうだ」

 スウェンはそう言い、歯切れ悪く言葉を切った。ログもセイジも、それぞれの過去を思い出したように、視線をそらしてしまった。

 少年は、考え込むように足元を見降ろした。のそのそとシャツのボタンを締め直し、意味もなく砂利を指で払って、ズボンの裾に擦りつけた。

「……このままじゃ駄目なんだろうなって事は、俺も分かっているんだ。だけど、貴方達が言うように『主』の身体が解放されたら、俺は一体どうすればいいのか……まだ何も思い出せなくて」

 不安が、少年の声や眼差しから伝わった。未知の世界に存在する不可思議な住人というよりは、まるで人間そのものに見えた。

 ズキリ、と頭が痛み、エルの思考は遮られた。

 唐突に、エルの脳裏に、まるで砂嵐のような映像の断片が流れた。ブロンドの幼い少女が、豊かな髪を翻してこちらに微笑みかけている。


あなた本当に何も知らないのね。どこから来たの、こっちへいらっしゃいな。あらあら今日は泣きむしさんなのね。私? 私の名前はね……


 腕を掴まれ、エルは我に返った。

 無意識に手で額を押さえつけていた為、前髪が乱れてしまっていて、ハッとして目を向けた先には、見慣れた仏頂面があった。

「おい、大丈夫か」

 ログが見降ろし、そう問いかけて来た。いつの間にか距離を縮めていた彼は、背中を丸めるようにこちらを覗きこんでいる。