少年は鼻をぐずぐずさせながら、しばし考える仕草をした。視線を右へ左へと動かし、それから改めてスウェンを見据えた。

「いいえ、あの白衣の人間は、本当に気付けなかったんだと思います。俺の『主』は、連れ去られた当初からずっと、ご友人様のポケットに入ったままでしたから」
「は? つまり、どういうことだ?」

 ログが、ますます分からん、というように眉根を寄せた。

 少年が怪訝そうな顔を向けて、「だから」と言葉を続けた。

「俺の『主』は、ご友人様と一緒に暮らしていた鼠なのです」

 少年がそう告げた途端、場が静まり返った。

 首を上げたクロエが、「ニャ」と短い声を上げた。ログが拍子抜けしたように、その場に腰を降ろして髪をかき上げたところで、呪縛が解けたようにスウェンも、どこか惚けたような短い息を吐いて、思案するように顎に手をあてた。

「――何でも支柱になりうるのかよ。とんでもねぇな」
「なんでも、ではないと思います」

 少年が躊躇しつつ、呟いた。