「威勢がいいねぇ、少年。でもまぁ、大丈夫だよ。外では問題だけれど、ここはそもそも現実世界ではないんだから」
「外……? 現実世界じゃないって……え、もしかしてお前――」
「言っておくけど、僕の頭がおかしいわけじゃないからね」

 彼はエルのドン引く表情を見るなり、きっぱりと自身の頭の潔白を主張した。

「ほら、改めて周りをよく見てごらん。死体なんて、どこにもないだろう?」

 促され、エルは改めて辺りの状況を確認してみた。

 ひどく破壊つくされたテーブルや椅子、シャンデリア、瓦礫の一部が辺り中を埋め尽くしてはいたが、倒れていたはずの人間の姿だけが忽然と消えていた。いくら目を凝らしても、血痕すら見当たらなかった。

「相手を撃った時、血が出なかった事に気付かなかった? 普通、顎の下から銃弾を撃ち込んだら酷い事になるよ。そういう設定がココではされていないんだ。怖い夢を見たとき、残酷なシーンになると思わず目を閉じてしまって、実際には見ていないのに血飛沫を想像するのと同じ原理なんだよ」