現実世界ではないとはいえ、エキストラ達の痛がる反応は本物味がある。出来れば、感情に任せた投球戦法は止めて頂きたい、というのが、エルとセイジの本音だった。

 しかし、二人が止めるべく口を開くよりも早く、スウェンが林檎を勢いよく少年に向かって投げつけていた。ログがそれに便乗する形で、別の屋台から大きな黄色い果実を掴み取り、少年に向かって砲弾のように投げ付けた。

 ってデカすぎるだろ! さすがに死ぬんじゃないの!?

「危ない!」

 エルが思わず危機感を覚えて叫ぶと、少年が一瞬、こちらを振り返った。エルに対して全く警戒心を抱いていない彼の薄い唇が、「え、ほんとに?」と動いている。

 動きをわずかに止めた少年が、振り返った刹那、その顔面で二つの果実を受けとめていた。顔面に叩きつけられた果実が粉砕し、少年は事切れたように崩れ落ちて、動かなくなってしまった。

 ログが悪態を吐きつつ、少年を俵担ぎした。顔面に果実を叩きつけた事への罪悪感は、まるでない悪い顔だった。スウェンも笑顔を浮かべており、彼に担がれた少年の隣を何食わぬ顔で並んで歩く。

 エルは少年の身を案じた。呼吸を整えながら、背伸びしつつセイジに耳打ちする。

「……彼、どうなっちゃうんだろう」
「……さぁ、悪いようにはしない、とは……思う」

 セイジは、消え入りそうな声でそう答えた。