四人から逃げる少年は、泣きじゃくりながらも人々の間を器用に走り続けていた。「怖いよぉッ」「死にたくない」「捕まったら食べられちゃう」と泣き叫ぶ姿は、かなり目立っていたが、少年の悲鳴に応えるエキストラは一人もおらず、泣いているからといって、少年の足が遅くなる事もない。

　先頭で少年を追うログの苛立ちは、ピークを迎えていた。男が大声で泣き喚き、女や子共じみた頼りのない発言をする事に対しても毛嫌いを覚えているようで、「今すぐ奴の口を封じてぇ」と殺気を抑えられない様子を見せていた。

「ログ、対象者を怯えさせるのは良くないと思うなぁ」

　市場の中を駆けつつ、スウェンが、ログの隣に並んでそう言った。

「あ？　なんだよ、本当の事だろ」
「いやいやいや、君が正直になってどうすんのさ。相手はエキストラの一人とはいえ、子供だよ？　嘘も方便ってことさ」

　スウェンがそう言い、逃げる少年の背に向かって「おお～ぃ」と声を張り上げた。