少年が、全速力で畦道を駆け抜けてゆく。

　右へ、左へと逃げ続ける少年は、入り組んだ細い道から民家の庭先を通過し、テントの張られた市場へと飛び込んだ。住民や旅行者には彼の姿が見えていないのか、少年に関して注意を払う者はいなかった。

　少年を追っているのは、大人の男が三人と、橙色のボストンバックを持った中世的な顔立ちの少年――風の少女が一人。

　市場に集っていた人々は、今にも銃を乱射しそうな顔をしたログに気付くと、反射的に飛び退いて道を開けていった。一体の何の騒ぎなのかと、彼らの視線は物語っている。

「てめぇッ、今すぐとまらねぇと、ぶっ殺す！」

　ログの罵倒が上がるたび、周りの人間達が肩を震わせていた。彼らは一体誰を追い掛けているのだろうと、首を伸ばして人混みの向こうを眺める住民もいた。

　そこでようやく、エル達は、もしかしてエキストラには『逃げる少年』の姿が見えていないのではなかろうかと、そんな疑問を覚えた。