スウェンはそう言うと、膝に手を当てて深呼吸をした。

 スウェン達と宿泊施設で別れたのは、つい数十分前の出来事のはずで、エルは困惑した。

「待ってよ、スウェンさん。俺達が別れたのって――」
「そういえば、エル君は大丈夫だったかい? ちっとも姿が見えないものだから、心配していたんだよ」

 スウェンの言葉に遮られ、エルは口をつぐんだ。

 彼は疲れ切った様子で、思いついたように話し続ける。

「あの建物で別れてから、僕がすぐに支柱の反応に気付いてね。セイジやログとは、途中で合流できたのだけれど。君が対峙しているのに気付いて、慌てて来て見ればあの少年が出てくるし、……まぁ、無事で何よりだけど、そっちは大丈夫だった?」
「俺はほとんど何もしてないし、戦闘も、さっきのぐらいだったから……」

 話しながら、エルは自分が目を閉じて、身体を休めていた時の事を思い出した。
少し目を閉じて考え事をしていただけなのに、この世界では数時間が過ぎていたなんて、そんな事ありえるのだろうか?

 必死に考えていると、心の奥底で、何者かがその問いに答えるような気配を覚えた。

 脳裏に浮かぶ文字は、エル自身が思い出すように、自然と知識を綴り始める。


――現実世界での数分間の思考と、どちらでもない世界での数秒間は、数時間に相当する事がある。


 俺は、そんな知識を持っていないはずだ。

 エルは知らず、足元の砂利に靴底を滑らせていた。これは別の何者かの思考であり、知識なのだろうか。それとも、自分が失った過去の記憶の一部なのか?