エルは、彼からクロエを取り返しながら、ボストンバッグを肩から斜めに提げ直して「あのね」と尋ねた。

「俺は、貴方がどうして奴らに追われているのか知りたいんだよ」

 しかし、少年は集中力がないのか、すぐに余所へと目を向けていた。

 エルが思わず「聞いてる?」と少年の腕を掴んだ瞬間、触れた手の先から静電気が走るような違和感を覚えて、思わず目を丸くしてパッと手を離した。少年の方も同じ物を感じ取ったのか、目を見開いてエルを見つめ返した。

 彼は自身の胸に手をあてると、まじまじとエルを覗き込んで来た。

「……君は『夢人』じゃないみたいだけど、もしかして、誰かの『宿主』なのかい? どうして、こんなところにいるの?」

 俺だって、解からない事だらけなんだ。

 エルは、そんな言葉を呑み込んだ。

 そもそも、訊き覚えがある気がするけど、『宿主』って何だろう……?

 ずっと昔に聞いた事があるような気がして、エルは少年に尋ね返そうとした。しかし、前触れもなく視界の隅に、見慣れた大きな身体が滑り込み、そのタイミングを逃してしまった。

 全速力で道を駆けて来た男達が、エルと少年に気付いて、坂道の途中で急ブレーキを掛けたのだ。三人分の土埃が舞い上がり、最後尾にいたセイジが、足元に躓いて派手に転倒した。