少年は続いて、ボストンバッグに入ったままクロエを抱き上げて、「君のご主人様は、すごいなぁ」と褒めた。先程まで泣いていたのが、嘘のようにころころ気分が変わる様子を見ていると、ただの馬鹿なのではないかとも思える。

 エルは、クロエと一緒に工場の外へ出てくる少年を、怪訝そうに観察した。

 まずは危険が去った事に安心したのか、少年は崩れた塀の傍まで進むと、「こっちへおいでよ」とエルを呼んだ。

「この下にある道を進めば、港まで行けるんだ。市場を通って、人通りもほとんどない畑道に抜けるから、きっと奴らには出くわさないと思う」
「そんな事より、なんで追われているのか聞きたいんだけど」
「そういえば、君はあいつらを知っているみたいだけど、俺と同じように追われているのかい?」

 さっきも似たような応答をした覚えがあるのだが、気のせいか?

 質問をしても的確な返答が返ってこないし、話も結構な頻度で飛んでいるような気がする。少年に悪気はなさそうだが、話が進まない現状を思って、エルは雑に頭をかいた。