エルは、標的が完全に再起不能である事を確認し、衣服を整えた。

 少し息は上がってしまったものの、倒した手応えは十分だと感じた。鼠男の身体は、屈強な大人の男のものなので、固い筋肉に覆われて全体的に固い。全力でいかないと、短い時間で片付けられなかっただろうと、冷静に分析する。

 エルが手についた埃を払っていると、尻餅をついたままの少年が「すげぇ……」とぼやいた。

「君、すごいねぇッ。武道家なのかい!?」
「この街に、そんな職業があるのか?」

 エルは、憮然と訊き返した。

 これぐらいは普通にやってのけないと、鍛えてくれたオジサンに顔向け出来ない。エルは彼に勝てた事が一度もなく、かといって他の人間と手合わせした事はなかったから、自分の戦闘能力がどれほどのものであるのかも分からないが……

 少年は立ち上がると、少し困ったように頬をかいた。

「船大工の人の中にも結構強い人がいるけど、君みたいに小さな子は初めてかも」

 彼はそう答えつつ、尻についた細かい砂利を払った。