そんな馬鹿な、と思う。だって、あれはセキュリティーのはずで……?

 すると、少年はエルの反応をどう受け取ったのか、途端に「当然な反応だと思うよ。誰も信じてくれなかったし」と気落ちした様子で、エルの隣に腰を降ろし、膝を抱えて話し始めた。

「……突然だったんだ。あいつらが出て来て、怖い顔で俺の事を追い駆けて来たんだ。街の人達が奴らと入れ変わって、もう滅茶苦茶なんだ。あいつら、掴まえて俺を取って食うつもりなんだよ。俺、何も――ぐすッ――何も悪い事してないのに」

 少年は泣き出したが、しばらくすると、咄嗟に青ざめた顔で外を振り返った。敏感に何かを察知した顔だった。

 違和感や殺気は覚えなかったものの、エルは少年の反応が気になって、腰を屈めつつ彼が向ける視線の先へと目をやった。

 桑を背負った麦わら帽子の老人が、片足を引きずりながら、工場の駐車場となっている砂利を歩いて来た。彼は工場には目もくれず、駐車場の奥まで進んだところで、腰に巻いていた布を地面に敷いた。

 老人は二人の視線に気付く様子もなく、その場に「どっこいしょ」と腰を下ろした。強い日差しを仰ぎ、首に巻いていたタオルで大雑把に顔の汗を拭うと、腰に提げていた水筒を取り出して飲み始めた。

 その時、エルは老人に対して、首の後ろが僅かに焼けるような違和感を覚えた。足元にいたはずのクロエが、ボストンバックの中に飛び込んで、低い警戒の声を上げ始める。

 エルは、自分達よりも早く違和感を察知していたのだろうかと疑い、恐怖に震える少年へ目を向けた。

 そもそも、彼は一体何者なのだ? もしかして、自分と同じように外からやって来た人間なのだろうか。