ホテルマンとは違った意味で、面倒そうなタイプだ。

 エルは心の中で呟いたが、何故か、特に目立った要素もないその少年に目が引かれてもいた。他のエキストラとは、どこか違うように感じたのだ。少年がまとう空気の密度は、このエリアに来て出会ったどの人間よりも、人間らしく思えた。

 どうやら彼に敵意はないらしい。エルは一旦、殺気を抑える事にした。

「――ごめん、俺は平気だよ。走って来たから、少し休んでいただけなんだ」

 エルがそう告げると、少年は、恐る恐るこちらに近づきながら「本当に?」と訊いた。

 彼は、毛繕いを始めたクロエも気になったようだった。鳶色の瞳を、エルとクロエへ往復させた後、遠慮がちに口を開いた。

「……この子、君の猫?」
「うん。クロエって言うんだ」
「へぇ、可愛いね。ちょっと触ってもいいかい?」

 エルが肯くと、少年はクロエの前にしゃがみ込んだ。彼は、躊躇しつつ彼女の頭をそっと撫でたが、すぐに手を引っ込めてしまう。