しばらく走り続けると、ボストンバックが重く感じ始めた。隠れられる場所を探していると、トタンで造られた個人の工場跡地のような建物がエルの目に止まった。

 そこは車が三台ほど入る程度の、殺風景な砂利道の駐車場があった。ほとんど崩れている塀の隅には雑草が生い茂っており、古びた工場の扉は開き切っていて、少し身を隠すには、都合の良い場所のように思われた。

 エルは、辺りに人がいない事を確認すると、引き戸が外れてしまっている建物の中に足を踏み入れた。

 工場を成しているトタンは、大半が赤茶色に錆びていた。工場内には、屋根の穴からもれる太陽のか細い光りが差しているばかりで、奥に工場用のテーブルが一つ、四方にガラクタが放置され、屋根からは大きな碇が目的もなくさがっていた。

 室内は、外の熱が立ち込めて蒸し熱かった。風が吹いているのがせめてもの救いだ。

 エルは、額から零れ落ちる汗を拭い、クロエをボストンバッグから出してやった。クロエは少し酔ってしまったのか、出てくるなり工場内の白い荒削りのアスファルトの上で横になってしまった。クロエは動物的な警戒心があるため、横になりつつ辺りの匂いを嗅ぎ、物珍しそうに鼻髭を動かせた。

「ごめんね、クロエ。無理させちゃったな」

 エルは詫びた。ちらりと外の様子を窺うが、特に危険はなさそうだったので、疲労した身体を休めるために出入口の影に腰を降ろした。

 鼠男達は、三人の軍人を追いかけるのに忙しいのかもしれない。

 無人の工場に入ってすぐの場所で座り込んだエルは。そう考えながら膝を引き寄せて、少しでも身体を休めるべく目を閉じた。