ハイソンは、夢の中の出来事を思い出した。胃痛と腹痛で忘れかけていたが、そういえば自分もラボを出てから眠気に襲われていたのだ、と思い起こした。

 何か関係があるのだろうかと、ハイソンは、眠りに引きずり込まれそうになる頭で考えた。

 考えようとするほど、睡魔が強くなる。思わず頭を抱えてよろめくと、クロシマがハイソンの腕をしっかりと掴んだ。

「頼むから、寝ちまわないで下さいよ。あんたが一番の頼りなんですから。不思議と、うちのラボに近いほど眠気も弱くなるみたいですし、そこまでは頑張って持ち堪えて下さい」

 クロシマは、半ば強引にハイソンを引っ張り、歩き出した。

 ハイソンは、先程「一服してくる」と休憩の為に席を立った同僚を思い出し、ひどい胸騒ぎを覚えた。

「おい、ジン達は、どうしたんだ?」
「ああ、あの口髭の奴っすか? 確か、ハンソンさんの元同僚でしたっけ――まだ戻って来ていませんよ。そもそも、喫煙所と食堂のある扉は、今は全部内側からロックされちまっていて、こっちから東の棟にも渡れなくなっているんですよ」
「おいおい、それは大事じゃないかッ」

 内側からロックなど、これまで一度も作動された試しがない。あれは元より、検体やウイルスを外へ出さない為に昔設置されていた緊急用の自動反応システムなのだ。