ハイソンは、話す男の姿を探した。しかし、眼球一つ動かすたびに、ひどい吐き気と頭痛に襲われた。世界が足元から大きく揺らぎ、歪みながら彼の身体を押し潰そうとしているような心地だった。
「君の所長が『ナイトメア』のウィルス・ディスクを残している。それを、プログラムの中心に入れて起動させなさい。しばらくは時間を稼げるだろう。ナイトメアが建物を完全に封鎖し、君達のラボを守る役割を果たす」
「『ナイトメア』だって? そんなもの聞いた事もない……ッ」
「在るべき場所から既に取り出してある。だから、君は早くラボに――」
そこで、声は途切れた。
頭が押し潰されんばかりの頭痛が始まり、ハイソンは堪らず口の中で呻いた。足場と頭上の境が分からないほど、身体がぐらぐらと揺れた。目の前に佇んでいたはずの景色が歪み、闇に飲み込まれ、ハイソンの身体は、闇の中に放り出されてしまった。
とうとう俺は意識を失うのか。
ハイソンは、闇の中で四肢を動かせた。目が回るほどの頭痛と吐き気が遠のいてゆく中、地面も頭上も分からない闇の中をハイソンは漂った。
ふと、日本人形のような艶やかな黒髪を腰まで流し、白いワンピース姿の女の子が、目に止まった。
不意に、ハイソンは女の子と目が合った。二人は、上下の世界にそれぞれの足をつけ、逆さまになったお互いの姿を見つめた。
闇の中で、女の子が優しく抱えている小さな両手が、ぼんやりと光っていた。彼女が手を開くと、今にも消えそうな弱々しい光が浮かび上がり、ハイソンのすぐ横を通り過ぎていった。
光りが目の前を通り過ぎる一瞬、ハイソンは、何故だかエリスの事を思い出した。
ほんの僅かだが、エリスが自分の元から去って行くように感じた。見覚えのある、癖もないストレートの金髪が、視界の端に映り込んだような気さえした。
「君の所長が『ナイトメア』のウィルス・ディスクを残している。それを、プログラムの中心に入れて起動させなさい。しばらくは時間を稼げるだろう。ナイトメアが建物を完全に封鎖し、君達のラボを守る役割を果たす」
「『ナイトメア』だって? そんなもの聞いた事もない……ッ」
「在るべき場所から既に取り出してある。だから、君は早くラボに――」
そこで、声は途切れた。
頭が押し潰されんばかりの頭痛が始まり、ハイソンは堪らず口の中で呻いた。足場と頭上の境が分からないほど、身体がぐらぐらと揺れた。目の前に佇んでいたはずの景色が歪み、闇に飲み込まれ、ハイソンの身体は、闇の中に放り出されてしまった。
とうとう俺は意識を失うのか。
ハイソンは、闇の中で四肢を動かせた。目が回るほどの頭痛と吐き気が遠のいてゆく中、地面も頭上も分からない闇の中をハイソンは漂った。
ふと、日本人形のような艶やかな黒髪を腰まで流し、白いワンピース姿の女の子が、目に止まった。
不意に、ハイソンは女の子と目が合った。二人は、上下の世界にそれぞれの足をつけ、逆さまになったお互いの姿を見つめた。
闇の中で、女の子が優しく抱えている小さな両手が、ぼんやりと光っていた。彼女が手を開くと、今にも消えそうな弱々しい光が浮かび上がり、ハイソンのすぐ横を通り過ぎていった。
光りが目の前を通り過ぎる一瞬、ハイソンは、何故だかエリスの事を思い出した。
ほんの僅かだが、エリスが自分の元から去って行くように感じた。見覚えのある、癖もないストレートの金髪が、視界の端に映り込んだような気さえした。