ハイソンは、崩れ落ちそうになる重い身体を、扉に打ちつけてどうにか支えた。今崩れ落ちたら、完全に眠りの中に飲み込まれてしまいそうなぐらいに、頭まで重く感じる。

　何故こんなにも、強い眠気に襲われるのだろう？

　唇を噛みしめ、痛みに集中して己の意識を繋いだ。何かがおかしい。そう考えている間にも脳の芯が重くなり、考えが上手くまとまらなかった。

　俺はトイレに入って、それから自動販売機へ行って、胃薬を飲んで……そもそも、俺は胃薬なんて手に持っていただろうか？

　ハイソンは唐突に、自動販売機の前に立っていた数分前の出来事を思い起こした。彼はあの時、薬を飲もうと考えていたが、胃薬を持っていなかったのだ。胃薬の予備が置いてあるロッカーまでの距離を考えながら、ミルクティーを購入する為に自動販売機のボタンを押したはずだ。

　思い返せば、そこからの記憶が曖昧だった。胃薬を持っていたという認識から、彼は何もかも間違えていたのだと気付いた。

　その時、廊下に一つの声が響き渡った。

「ハイソン君、起きなさい。これは、君が一瞬の間に見ている『夢』だ。けれど、ここは予期される未来の光景でもある」

　どこか聞き覚えのある、よく通った男の声だった。

　ハイソンは、今にも溶けてしまいそうな重い頭を上げ、呻いた。

「夢……？　これが、『夢』だというのか？」
「そう、これは起こり得る未来を視た、ある人間の夢の残留なのだ、ハイソン君」

　声は、ぐるぐると回り始めたハイソンの頭に、直接語り掛けた。

「耐性のない人間にとっては毒でしかないから、君には説明する時間がない。よく聞きなさい、ハイソン君。『彼女』の影響は、既に外に滲み始めてしまっている。『彼女』は自身の安定の為に、より多くの『夢』を取り込もうとするだろう。君達は、『彼女』の影響をここで食い止めねばならない」