ハイソンは、廊下の窓から差しこむ日差しと、自分の足先を見つめながら先へと進んだ。一つ目の窓を過ぎ、二つ目の窓を過ぎ、三つ目の窓が……

 ふと、ハイソンは足を止めた。

 歩き慣れた廊下は、下を向いていたとしても目的地へ辿り着く事が出来るのだが、一向に通路の終わりが見えて来ない事に気付いた。ハイソンは既に、廊下に光りの筋を作る窓の影を十数枚分は跨いだはずだったが、顔を上げて先を確認してみても、目的のラボは見えて来なかった。

 ハイソンは、悪寒を覚えた。研ぎ澄まされた五感が、緊張の為に知らず冴え渡った。

 正面を注視すると、見慣れた一本の白い廊下が続いているのが見えた。研究室の扉には『備品室』と書かれたプレートが掛かり、続いての扉も備品室で、更に続く扉も――全く同じ光景が続いていた。

 彼は、慌てて振り返った。自分が辿った廊下の向こうには、同じ風景が真っ直ぐ伸びていた。この回廊には一つしかないはずの自動販売機が、何重にも重なって奥の暗がりまで続いている風景に、強い眩暈を覚えた。

 そんな馬鹿な――

 ハイソンは、落ち着きなく眼鏡を中指で押し上げた。備品室の扉には、小さなガラス窓が設置されており、彼は存在するはずのない三個目の備品室を覗いてみた。
彼の記憶が確かであれば、そこには仮想空間のメイン・ラボから遠ざけられた、若い研究員の誰かがいるはずだった。

 整頓された三番目の備品室内には、大きな白いテーブルが一つと椅子が六脚あり、そこに三人の研究員の姿があった。彼らは椅子に腰かけ、机に顔をうつ伏せに押し付けていた。テーブルの上では、飲みかけのコーヒー缶が横倒しになり、散らばった資料の上に大きな染みを作っている。