「……そういえば、セイジは女の子に出会ったといっていたけど、何者なんだろうね。エル君にしても、謎なんだよなぁ。材料の一つとして連れて来られたのか、仮想空間の暴走で巻き込まれてしまっただけなのか。――戦闘能力は異常に高いようだけど、軍の関係者ではないという事以外、結局のところ、何一つ分かっていないんだから」

 『仮想空間エリス』は未完成であり、現在も崩壊と再生を繰り返している。

 必要性があって人間が集められていたと考えられているが、注意して見ていても、エルの周りで妙な動きは起こっていないようだった。ログは、エルに対して何かしら引っ掛かるものがあるらしいが、スウェンが訊いても、気がかりの正体は不明だとしか彼は答えない。

 仮想空間の入口は、既に閉ざされており、マルク側で入手できる人間はいない状況だった。

 エルが最後の被害者である場合は、マルクが放っておかないとスウェンは推測し、彼を連れる事にしたのだが――現在のところまで、マルクが介入してくる様子はなかった。

 マルクが材料の調達を終えて、最終段階に入っているという最悪の可能性もあるけれど。

 一体、エリス域はどうなっているのだろう、と疑問ばかりが募る。少ない材料で全てを理解し、謎を解いてしまえる異能を持ったスウェンには、分からない事だらけの現状が歯痒く、心地が悪かった。

 長い間、スウェンは、ぼんやりと考えていた。窓から差し込む日差しの位置が、僅かに動いている事に気付いた時、玄関扉の方から物音が聞こえた。どうやら、袋を抱えたセイジが、戻って来た際に壁に袋を擦ってしまったらしい、とスウェンは察した。

 物音に気付いて、ログがパチリと目を開けたが、スウェンは起き上がろうとする彼を静かに制した。