二人は、しばらく黙ってビールを飲み、部屋を吹き抜ける風に耳を済ませた。穏やかな時間が流れている事を、目に、耳に、肌に、視覚に強く認識した。

 いつでも外の異変や危険が察知できるよう、わざと開け放っている部屋の出入口の前を、若い旅行者カップルを連れたブロンドの受付嬢が、楽しげな声を上げながら通り過ぎて行った。

「全部がリアルってわけじゃない。俺の中で、違和感は残ってる」

 ログはそう告げ、ビール缶をテーブルの上に戻した。缶の中には、まだ液体が半分は残されていた。

「ビール、美味しくなかった?」
「好みじゃねぇな」
「確かに、君には好みじゃない味だったかもしれないね。――僕も、ここが仮想空間内だという事は理解しているよ、違和感は残ってはいるからね」

 そう語りながら、スウェンは持っていたビール缶に浮いた水滴を、意味もなく指で拭った。

「僕は、受ける刺激が精密になっていくところに関しては、正直に言うと危惧を覚えている。僕らの知らないところで、仮想空間は、厄介な成長を遂げているんじゃないかと思う」