生身の身体であるエルに関しては、リセット機能が働かないので、三番目のセキュリティー・エリアでは、スウェンが心配に思うほど昏々と眠り続けていた。破壊の能力を発動するにあたっては、ログも、休養と睡眠を取らざる得ない状況となっている。

「別エリアのエキストラであるはずの『ホテルマン』が、四番目のエリアにいた時点で、既にリセット論は崩れてしまっていると結論すべきだったね。僕らが接近戦で受ける衝撃もリアルだったし、ここから先、五感に受ける刺激は、更に本物に近づいていく可能性がある」
「エリス域に近いほど、よりリアルな世界になるって訳か?」

 ログが片眉を持ち上げ、怪訝そうにスウェンを見やった。

「仮想空間は、ハイソン君たちの予想を超えて、独自に早急な進化を遂げている可能性もあるって事だよ。用意されている『強制送還システム』を使うような事態になったら、僕らはまさに、死の疑似体験を嫌でも味わう事になる訳だ。実際のところ肉体への害はないらしいけれど、今となっては、それすらも疑わしいね」

 スウェンは、大きく息を吐いた。

 常識や理屈、理論が通用しない真実が、この世には多くある事は、軍のこれまでの極秘実験から知っているつもりだ。だからこそ、理解する必要はないとも分かっている。どうすれば問題を解決でき、任務を遂行する事が出来るのか、がスウェン達の役目であるからだ。

 余計な探求心は、遂行達成の足を引っ張るリスクとなる。――とはいえ、今回の現場については、あまりにも謎が深いのも事実だ。