一人と一匹がいなくなると、リビングルームは静かになった。

 やけに荒々しい浴室の開閉音が聞こえた後で、ログが一缶目のビールを飲み干し、スウェンが二缶目を開けた。

「エル君を怒らせちゃったなぁ。全く、君が一体何を考えているのか分からないよ――でも、このビール、味はちゃんとついていて良かったね。仮想空間へ入ってから、初めて『飲んだ』感じがするなぁ。酔いは一向に回らないけど」

 スウェンが反省しつつ笑うと、ログが鼻を鳴らした。

「結局のところ、俺たちの脳が機械に騙されるような軟な造りじゃなきゃ、酔えないんだろ。擦り傷程度じゃ、痛みさえ感じさせられねぇしな」
「ふふ、そうだね。銃弾が掠った時もリアリティがほとんどなかったから、なんだか拍子抜けしちゃったしなぁ。――まぁそれも、三番目のエリアまでの話だけれどね」

 スウェンの表情から、途端に陽気さが薄れた。

「四番目のセキュリティー・エリアだけど、君は気付いていたかい? 受ける衝撃も全て本物そっくりだった。あのラスボス級の化け物の尻尾を避けた時、風圧で脇腹が軋んだんだけど、ひどい打撲になっていたよ。接近戦の際の瓦礫の破片が、この世界に来ても腕に刺さったままだったし、ほんと最悪だ」