エルとログは、長らく見つめ合っていた。

 ログは、相変わらず不機嫌面で、エルは目を合わせて時間が経つごとに、彼の名前を呼ぶ事に気が引けてしまった。ログには、小さいだとかクソガキだとか馬鹿にされており、エルとしても、彼に自分の名を呼ばれた覚えがないのも原因かもしれない。

 その時、ログが私情の読めない顔のまま、小さく唇を動かせた。


「――エル」


 その低い声に抑揚はなかった。ただ、名を呼ばれた。それだけだった。

 彼に名前を呼ばれたのは、エルが記憶している限りでは今回が初めてだ。また馬鹿にされているのだろうか、とエルは身構えたが、いつまで待ってもログからの反応はなかった。彼はただ、じっとエルの言葉を待っている。

 室内に風が大きく吹きこみ、カーテンが膨れても、ログは動かなかった。

 ログの様子を見守っていたスウェンも、疑問を覚えたように片眉を引き上げた。エルは、あまりにも長い沈黙に、もしやログは、破壊の力とやらを使ったことで、体調でも悪くしたのだろうかと不安になった。

「……ログ?」

 エルが気遣うように呼ぶと、ログが途端に、益々怪訝な表情をした。

 よし。よく分からんが、こいつはぶっ飛ばそう。

 売られた喧嘩を買う姿勢をエルが構えると、スウェンが二人の間に割って入り「足を止めさせてごめんね、シャワーを浴びておいでッ」と、早口でエルに告げた。

 どうやら、自分は無駄な喧嘩を吹っ掛けられただけらしい。そう悟ったエルは、苛立ちを隠さず踵を返した。状況を把握していないクロエが、足早に浴室へと向かうエルの様子に喜び、床を飛び跳ねるようについて行った。