「もう一度言ってみてよ」
「何を?」

 エルが小首を傾げると、スウェンは、目尻を下げるような笑みを見せた。

「『セイジさん』って響き、僕は好きだな。昔さ、ローランドっていう良い男がいて、彼の事を『セイジさん』って律儀に呼んでいたのを思い出したよ」

 エルは、暫し自身の記憶を探った。

 確かについ先程、自然とセイジの名前を口にしている覚えがあった。彼の名前に日本名の響きがあるせいか、エルの口にも馴染みやすいのだ。

「ねぇ、僕の事は何て呼んでいるの?」
続けて問われたエルは、以前のログとのやりとりを思い起こした。
「えっと、確か……――『スウェン』」
「あはは、僕は『さん』抜きなんだねぇ」

 スウェンが、口を開けて笑った。

「――うん、どんどん呼んでくれて構わないよ。僕らもエル君って呼ばせてもらっているし、遠慮はいらない。そうだ、この人は? まさか、名前を忘れたりはしていないよね? 君、あまりにも僕らの名前を呼ばないものだから、ちょっと心配になってくるよ」
「別に忘れたりはしてないよ。記憶力は良い方だもん」
「そうなの?」

 スウェンが少し肩をすくめ、ビール缶を持った手でログを指した。

 エルは、スウェンに促されて、ログの仏頂面へ目を向けた。エルの足元で、痺れを切らしたクロエが、催促するように身体をすり寄せた。