スウェンの髪先からは、乾き切っていない雫が滴り落ちていた。エルは、テーブルの上のビール缶に目が止まり、最後にオジサンとビール飲んだ頃の事を思い出して――

 途端に、リゾート地に来たような興奮も静まってしまった。

 思い起こせば、オジサンは破天荒な人だった。お酒を嗜み、未成年のエルにも「美味いぞ」と勧めた。

 あのやりとりも、もう随分も昔のような気がした。笑ったオジサンの顔が、セピア色の記憶の向こうに追いやられて、いずれ消えてしまう事が恐くて、エルは、そんな弱気を振り払うように頭を振りクロエと視線を交わした。

 冷蔵庫にジュースと牛乳が入っているのは有り難いが、それよりも先に、エルとクロエは、先に済ませたい事が一つあるのだ。

 一人と一匹は、お互い目で語り合った後、一つ肯いてログの方を見やった。

「お前、風呂は?」
「すぐに入る予定はない」
「じゃ、俺が先に入る。セイジさん、まだ戻って来ないみたいだから」

 冷蔵庫には、チーズやウィンナーや果物といった、ちょっとした食糧と多種類の飲料が詰められていて魅力的なようだったが、広いシャワールームには、シャンプーも歯ブラシもドライヤーもタオルも全て完備されており、最高の状態だったのだ。

 先程、一通り部屋を回った際に、風呂場に大きなユニットタブが付いているのを見た時から、エルは楽しみにしていた。

 風呂は好きだ。昔は、ボイラーが壊れてお湯が出なくなってしまうたびに、オジサンとクロエとポタロウと一緒に、地元の個人銭湯に行った。風呂上がりの牛乳が最高に美味かった事を覚えている。クロエは猫だが風呂好きで、夏場にビニールプールを庭先に設置すると、誰よりも先に飛び込む程だった。