海は白い砂地の面積が大きいのか、エメラルドやブルーの色を発光させているかのように輝いて見えた。波の動きに合わせて、キラキラと光りが輝く様子は、広大な海が神々しく佇んでいるように思えた。遠くなるほど海の色は深く濃く染まり、頭上に登った太陽の日差しを受けた水面に、まるで無数の宝石が散らばっているように見えた。

 テラスからは、止まる事なく風が吹きこんでいた。開けっぱなしのカーテンが大きく膨らみ、熱を持った髪と衣服が心地良くはためく。手すりの間から顔を出したクロエも、眼下の景色を眺めつつ、吹く風に向かって大きく口を開けて身体の熱を冷ました。

「おい、クソガキ。あんまり身を乗り出して、落っこちるんじゃねぇぞ」
「落ちねぇよッ」

 背中越しに反論したものの、エルは、手すりから身を乗り出す姿勢には反省し、渋々下りた。

 袖をまくってはいるものの、コートの中はとても暑い。正面から受ける海からの風が心地いいので、エルはその場にしゃがんで、手すりの間から、しばらくクロエと一緒に町を眺めた。

 しばらくすると、飽きの早いクロエが横になり、エルに遊び相手になるよう要求し始めた。エルは片手をやって、彼女の柔らかい首や頭や腹を撫でてやった。クロエは気分が良いのか少々好戦的で、爪は出さない肉球タッチで、エルの手を捕まえようとはしゃいだ。

 その間、部屋に一人残されたログは、特に何かをする訳でもなく、長ソファの端に腰かけていた。時間はひどくゆったりと流れていて、時折、猫の鳴き声と、猫に話しかける子共の声が聞こえて来る様子に、彼は静かに目を閉じた。