一向は、視察も兼ねて歩き出した。エルは途中、凸凹した道に躓いて通り過ぎる白人の金髪男性と肩がぶつかってしまったが、男は気分を害した様子もなく「大丈夫かい、悪かったね」と、エルに落ち着いた笑顔を返してくれた。

 仮想空間内とは思えないほど、環境も役者もリアルなように感じた。

 エルは、忙しなく辺りに目を奪われた。市場で仕事を行う者、軽貨物車で坂道を上って行く者、旅行鞄を提げて道を下る観光客。白い砂浜のビーチにはいくつものパラソルが色とりどりに咲き、多くの人々の賑わいが熱気と共にあちらこちらから伝わって来る。クロエもボストンバックから顔を覗かせて、興味深げに辺りを見回していた。

 島には、生息し歩き回っている動物の種類も多かった。

 鶏や山羊、ミニブタ、犬、野良猫も見掛けた。沖縄の真夏に比べると気温や湿度は涼しい方ではあったが、太陽の熱も本物のように熱く痛い。地面は日差しの熱で温まり、しばらく歩くと、四人ともシャツが汗ではりついてしまっていた。

「完成度の高い仮想空間だなぁ。島を全部回るとなると、少々骨が折れそうだねぇ」
「観光じゃねぇんだから、その必要はないだろ」
「まぁ、そうだけどさ。一般論だよ」

 スウェンが、頬から伝い落ちる汗を手の甲で拭った。

 戸惑いを覚えるのも仕方がなく、これまでのエリアに比べると、五感に伝わる感覚は、現実かと見紛う程リアルだった。街の人々に関してもそうだが、仮想空間として違和感がないように思える。

 目的とする支柱の反応は、スウェンが持っていた探査機の、ブラウザに表示された電子見取り図で確認出来た。