完成度が高くなる、と聞いて、エルはこの世界で感じていた違和感について理解出来た気がした。つまり、五感に触れる感覚がリアルにもなる、という事なのだろう。

 スウェンが先に光りの壁に足を踏み入れて、続いて、セイジが光りの向こうへと飲み込まれていった。

 エルは、次の世界に何が待ち構えているか分からないと思い、念の為ボストンバックを抱え持った。鞄の口から顔を覗かせているクロエと目を合わせ、「用意はいい?」と尋ねる。

 すると、後ろからログが「早く行けよ」と、エルの背中を靴の裏で押した。

 エルは、心の準備も出来ないまま、目まぐるしい光りの洪水の中に投げ出された。飛び蹴りでエリアを超えてしまった事に対して、ログは根を持っていたのだろうと察し、エルは「子供かッ」と突っ込んだ。

 エルは光りの洪水に揉まれながら、ログに文句の一つでも言ってやろうと考えていたのだが、次の瞬間、眩しい日差しと空の青さが目を焼いて、怒りを忘れた。


 到着した世界は、とても眩しかった。身体中に降り注ぐ太陽の熱や、吹き抜ける海風の涼しさを鮮明に覚えて、エルは、ゆっくりと瞬きする間に考えた。


 青い空には夏の雲が流れ、斜面を下った先には広大な海が広がり、長閑でリアルな美しさがエルの五感に突き刺さる。

「……ここ、どこ? というか、本当に仮想の世界なのか?」

 エルはそう呟き、額に浮かび出した汗を拭った。