エルは、我に返って顔を上げた。どうやら迷いが、戦闘訓練で鍛えられたはずの五感を鈍らせていたらしい。そこには、長いライフルを抱えた黒服の男が立っていた。
標的を見付けた人間の殺意が全身に突き刺さった。エルは、育て親の教えを無駄にするものかと、短く息を吸い込んで恐怖を抑え込み、床に転がっていた拳銃を反射的に拾い上げ、ロックが外れている事を確認して、躊躇する事無く引き金を引いた。
発弾の際の鈍い反動を覚えた。二発の銃声のあと、黒服の男の身体が崩れ落ち、エルは消炎の立ち上る銃口の先に転がる、自分が殺した男の死体を茫然と見つめた。
エルは、自分が狙撃に向いていない事は知っていた。確実に相手に傷を負わせ、殺してしまえる凶器を使う事に恐怖を持っていたから、大事な育て親も「強制はしないけどな」と笑ってこう言っていた。
――平和な日本じゃ必要ないだろうが、護身用に一通り使い方だけでも学んでおいた方がいい。
その時、一際細い銃声が耳をついて、煙った空間の向こうから一つの火花が上がった。同時に鋭い風が、エルの顔のすぐ横を突き抜けた。風に舞った髪先が焼け、発砲されたのだと遅れて気付いて、慌ててテーブルの後ろへ身を隠して呼吸を整えた。
標的を見付けた人間の殺意が全身に突き刺さった。エルは、育て親の教えを無駄にするものかと、短く息を吸い込んで恐怖を抑え込み、床に転がっていた拳銃を反射的に拾い上げ、ロックが外れている事を確認して、躊躇する事無く引き金を引いた。
発弾の際の鈍い反動を覚えた。二発の銃声のあと、黒服の男の身体が崩れ落ち、エルは消炎の立ち上る銃口の先に転がる、自分が殺した男の死体を茫然と見つめた。
エルは、自分が狙撃に向いていない事は知っていた。確実に相手に傷を負わせ、殺してしまえる凶器を使う事に恐怖を持っていたから、大事な育て親も「強制はしないけどな」と笑ってこう言っていた。
――平和な日本じゃ必要ないだろうが、護身用に一通り使い方だけでも学んでおいた方がいい。
その時、一際細い銃声が耳をついて、煙った空間の向こうから一つの火花が上がった。同時に鋭い風が、エルの顔のすぐ横を突き抜けた。風に舞った髪先が焼け、発砲されたのだと遅れて気付いて、慌ててテーブルの後ろへ身を隠して呼吸を整えた。