「ふうん? そんなものかな」

 バイクを降りたエルは、ログから、クロエの入ったボストンバッグを受け取った。

 クロエは、エルの腰元にボストンバッグが落ち着いたのを確認すると、満足げに再びボストンバックの中で丸くなった。

「俺、隠しているつもりはないんだ」

 エルはログの視線を感じ、答えながら足元に目を落として、ぽつりぽつりと答えた。

「いつからなのか覚えてないけど、喋り方だって気付いたらこうなってたし、勝手に勘違いされる事も多くて。訂正するのも面倒だし、都合を考えら、それでもいいかなとも思えて。そもそも、俺は女の子って柄じゃないし、そういうのは似合わないから」

 エルにも、テディ・ベアが欲しかった時期はあったが、今では実感も薄くなっていた。父を保育園まで迎えに行った時の事や、母親とお揃いのワンピースを着て町を散歩した事も、今では、全てが自分の事じゃないように思える。

 いつからかは覚えていない。長い髪に憧れがなくなって、唐突に違和感を覚えてしまい、オジサンに切ってよと頼んだのだ。喧嘩だってした事がなかったのに、オジサンの家で怪我が癒えてからは、ずっと走り回ってもいた。