エルは、珍しくよく喋るログに不信感を覚えた。

 言葉が聞き取りにくい状況の中で話しかけられても、余計苛々するだけだ。隣のログを盗み見ると、彼は向こうの車道を向いていた。預かったボストンバッグの外側から、丸くなっているクロエの背中を、軽くあやしている。

「おい。お前、俺に何か言いたい事でもあるの?」

 エルは先手を打ってそう尋ねたが、ログから返事はなかった。

 自分で喋りたい時に喋り、楽をしたい時は小さい人間にバイクの運転すら押し付ける横暴振りに呆れて、エルは正面へと向き直りつつ、思わず口の中で悪態を吐いた。

「くっそ、マジで振り落としてやりてぇッ」

 二台のハーレーの純正サイドカーは、一本道の大通りを、ひたすら真っ直ぐ走り続けた。

 エルも苛立ちを忘れ、衣服や髪が潮風にバタバタと音を立てる様子を、しばし楽しんでしまった。途中、スウェンが蛇行運転でセイジを楽しませるというパフォーマンスを行い、それを見たログが「お前もやれ」とエル言ったが、エルは「黙ってろ」と一刀両断した。