「だって、そう呼んでって言われたから」
「ふうん、なるほどな。けど知らねぇよ。ただのエキストラなんだから、そのまま消えちまったんじゃねぇのか?」
「まあまあ、落ち着きなよ、ログ」

 これから口喧嘩に発展しそうだと察し、スウェンが、さりげなく二人の間に割って入った。

「夢のエキストラである彼と、僕らの時間の流れは少し違うと思うんだよ。この建物を出た後に、エキストラである彼の本来の時間や設定が清算されたんだとすれば、辻褄が合うんじゃないかな?」

 ログとエルは、顔を見合わせた。お互い眉を潜めたところで、ログがスウェンに視線を戻して尋ねた。

「おい、スウェン。バカでも分かるように説明すると、つまりどうなったんだ、あのエキストラ野郎は」
「君、本当に彼が嫌いなんだね……つまり彼にとっては、建物から出た後に僕らと分かれて、問題なくどこかへ行った、という設定が施された可能性が高いって事さ」
「なるほどな」

 移動用のバイクが用意されているとスウェンから説明を受けた後、四人は、スウェンを筆頭に道路の真ん中を歩いた。クロエは再び眠ってしまったので、エルは、ログとスウェンの背中をぼんやりと眺める形で、セイジの隣を並んで歩いた。

 疲労が重なっている事もあり、移動中に話す者はいなかった。エルは時折、ボストンバッグの中に潜り込んでいるクロエの寝息を確認した。

 移動用として用意されていたバイクは、少し年代を感じる、アメリカ製ハーレーのサイドカーが二台だった。単車の塗装は、劣化の目立つブルーとイエローで、シートの色は褪せて全体的にクラシカルな印象だった。車体のメッキには錆が目立ったが、エンジンは問題なく掛かった。