始めた者の手で、終わらせる為の用意をしなければならない。
私は『彼ら』に、その責務を負わされた。
本当に偶然の出来事だったのだ。あの日、彼女が血だらけの子共を運んで来たのは。
彼女は、私が過去に、生きた人間を捌いてきた事を知らなかったから、医療技術を持った人間である事だけを信じて、私の元へその女児を連れて来た。
その子共は、酷い傷を負っていた。いつ事切れてもおかしくなかった。彼女が手を離すと、すぐに大動脈から激しい出血を起こした。生きている事が信じられないほど、身体中がぼろぼろだった。もはや、私にすら打てる手立てはなかった。
その時、私の頭の中に『あいつら』が話しかけて来たのだ。
死に抱かれた子供を助けたくば、こちら側に引き渡せと『彼ら』はそう言って来た。
だから、私は――
※※※
支柱があった空間の出口を抜けると、そこに広がっていたのは三車線の国道だった。
明るい夜空には複数の星が散らばっていたが、月はない。
道路の左右には、背の低い建物が連なり立ち並んでいたが、どれもひっそりと静まり返っていた。海岸線沿いあたりだろうか。道路に沿う建物の向こうに、黒い海が広がっているのが見えた。しっとりとした夜風には、潮の香りも含まれている。
仮想空間であるはずなのに、やはり、前回のセキュリティー・エリアよりも、現実味が増している気がした。
後方を振り返ると、先程までいた工場の一角が聳え立っているのが見えた。出た人間の数は五人のはずだったが、辺りを探してもホテルマンの姿だけがなかった。
「ホテルマン、どこに行っちゃったのかな」
「なんだ、その『ホテルマン』って」
ログがジロリを見下ろしながら、心底嫌そうな顔でエルに尋ねた。
私は『彼ら』に、その責務を負わされた。
本当に偶然の出来事だったのだ。あの日、彼女が血だらけの子共を運んで来たのは。
彼女は、私が過去に、生きた人間を捌いてきた事を知らなかったから、医療技術を持った人間である事だけを信じて、私の元へその女児を連れて来た。
その子共は、酷い傷を負っていた。いつ事切れてもおかしくなかった。彼女が手を離すと、すぐに大動脈から激しい出血を起こした。生きている事が信じられないほど、身体中がぼろぼろだった。もはや、私にすら打てる手立てはなかった。
その時、私の頭の中に『あいつら』が話しかけて来たのだ。
死に抱かれた子供を助けたくば、こちら側に引き渡せと『彼ら』はそう言って来た。
だから、私は――
※※※
支柱があった空間の出口を抜けると、そこに広がっていたのは三車線の国道だった。
明るい夜空には複数の星が散らばっていたが、月はない。
道路の左右には、背の低い建物が連なり立ち並んでいたが、どれもひっそりと静まり返っていた。海岸線沿いあたりだろうか。道路に沿う建物の向こうに、黒い海が広がっているのが見えた。しっとりとした夜風には、潮の香りも含まれている。
仮想空間であるはずなのに、やはり、前回のセキュリティー・エリアよりも、現実味が増している気がした。
後方を振り返ると、先程までいた工場の一角が聳え立っているのが見えた。出た人間の数は五人のはずだったが、辺りを探してもホテルマンの姿だけがなかった。
「ホテルマン、どこに行っちゃったのかな」
「なんだ、その『ホテルマン』って」
ログがジロリを見下ろしながら、心底嫌そうな顔でエルに尋ねた。