このままここにいたら、殺される。

 エルは唾を飲み込んだ。空気が汚れて視界が更に悪くなる中、消炎と破壊の匂いが、全身の神経を勝手に研ぎ澄ませて強い緊張感を生んだ。

 その時、視線の先で、二人の黒服の男達が銃弾を受けて崩れ落ちた。

 黒服に反撃する者がいるらしい、とエルは気付いた。絶命した黒服の男が持っていたのか、予備として持っていた武器の一つが落とされたのか、一つの爆音と共に一丁の拳銃が滑り込み、エルから二メートル程の距離で止まった。


「――俺は、死にたくない」


 エルの中で、死への恐怖と、人道に反する行為が天秤にかけられていた。恐ろしさに胸の奥が痛み、全身がギシリギシリと軋むように感じる。

 いくら自分の身を守る為だとしても、殺生は全くの別問題だ。しかし、生き残るためには、反撃している何者かと同様の手段に出なければならないのだ。

 エルは、訓練は受けた事があるものの実戦経験はなかった。訓練以外で久しぶりに聞いた銃声の音に怯えながら、震える手を慎重に銃へと伸ばした。もう少し、もう少しで届く……

 その時、拳銃の先に黒光りする革の靴が見えた。