彼は日本語も達者だったが、言語や外国という言葉も理解出来ない年頃の幼子に、どう説明していいのかも分からないでいる。

 何故かというと、肌の色が黒くなっているせいか、彫りの深い顔立ちが多い沖縄に溶け込んでいるのか、この子は全く疑問を抱かないでいるのだ。青い目で驚かれるかなと身構えていたが、驚くほど反応がない。

 素直過ぎるのか、疑いを持たないのか。そういう性格は逆に心配になるし、悩ましい部分でもある。

 つか、もともと金髪だったんだけどな。まだ真っ白ではないはず、なんだが……あ、そういや近所の婆さんに「真っ白ねぇ」と、ここ数年しつこく言われてたっけな……全部白髪じゃないと言い切る自信がなくなって来たぞ。

 しばし考え、男は「白髪でいいか」と簡単に結論付けた。長ったらしい説明は苦手であり、好きでもない。身元を聞かれたら、それなりに一つずつ教えて行けばいいような気もする。

 ……とはいえ、この子が、そう疑問に思って気付いてくれれば、だが。

「髪を切って」
「ちっ、忘れていなかったか」

 散髪は得意だが、しかし、どうしたものか。

 どこからか猫の鳴き声が聞こえて来て、男は「よっしゃ!」と目を見開いて立ち上がった。彼はわざとらくし大きな声で「あいつのメシの時間だ」と口にして、畳みの上を駆け出し、縁側に飛び降りて素早くサンダルを履いた。

 つまり、考える事が面倒になったので、ひとまず逃げる事にしたのだった。