夢を見る事が悪いとは思わない。けれど純粋に、人間は常に欲深すぎるのだ。――それが問題だと思う。

 私がこれから書くのは、全て真実である。

 君には、一つの嘘もつかないと誓おう。けれど、この事実を知る人間が限られている事については、先に述べておく。特に、これから後に私が述べる事に付いては、君と私だけの秘密にして欲しい。

 君は昔、私が行う事について危惧していた事があったが、まさに、そうだったと今更私は後悔している。人間が踏み込んではいけない領域だったのだ。もう、取り返しがつかないだろう。


 私が出会った『彼』は、自分を『存在しないモノ』だと語った。


 世界は、様々な『理』によって形成され、存続しているのだという。彼らの世界には、一定のルールがあり、条件があり、そして人間の感情論は、彼らの世界では何の意味もなさないのだ。

 運命とは残酷だ。私がようやく気付いた時には、もう手遅れだった。『夢』の世界というものは、私にとって記憶の整理であり、映像処理といった脳の無害な作用であるはずだった。

 しかし、私の目の前で起こったその悪夢は、現実だった。

 心臓を止めたはずの子どもの肉体が、みるみる治癒を始める。

 壊れた身体に宿った『モノ』が、凍りつくような眼差しで私を見た。血の吹きこぼれる小さな唇から紡がれる、肉体の正確な治癒値と割合、速度は、もはや機械がデータ処理を続けるような、おぞましい光景だった。

 信じられるだろうか。『理』の均衡が一つ崩れそうになったばかりに、あるべき過去が変わり、複数の人間の人生が修正分として割り当てられ、そして、我々の周りにあるべきように用意されてしまう事実を。

 運命は、我々人間には計り知れないほど強大なのだ。

 私は窮地に陥っていた。けれど同時に、目の前で死に掛けている子供を助けられるのであれば、それが目に見えない大きな存在達の策略や陰謀の一つだとしても、私は何度でもその結果を選んだだろうとも思う。