しかしふと、スウェンは立ち止まり、エルを振り返った。

「そういえば、エル君。何かあった?」
「え?」
「なんだか、別れる前とは雰囲気が違うような感じがして、少し気になったんだ」
「――特に何もないよ。二人で一緒にモンスター退治をしただけだ」

 エルは平気を装い、そう答えた。スウェンが「ふうん?」とぼやいて踵を返し、ログ達の方へと駆けていくのを見送った。

 先程出来てしまった秘密を、エルは、彼らに打ち明ける訳にはいかなかった。誰にどんな約束をしたのかは思い出せていないが、いずれ全てを思い出さなければならないだろう、とは分かっている。

 実をいうと、このフロアへ入った瞬間に、エルは、もう一つ思い出した記憶の風景があった。

 白いコートと、白いシャツと水玉のネクタイをした、首に薄い古傷を持った男の人の事だった。彼が、包帯だらけのエルの幼い手を取り、オジサンに話しかけている光景が脳裏に浮かんでいたのだ。

「ねぇ、一つだけ訊いてもいい?」

 ログとホテルマンの騒ぎが収まった頃、エルは、出口へと向かう彼らについて行きながら、こっそりスウェンを呼び止めた。彼が目を瞬いて「どうぞ?」と小首を傾げた。