エルは、ホテルマンに促され、肩越しに訝しげに後方を窺い見た。セイジとスウェンに続いて、腰を上げたログと目が合った。

 途端、ログの眉間に深い皺が入った。こちらの内容は聞こえてはいないようだが、何かしら悪口を囁かれていると、野性的な勘で察したらしい。

「……あいつがハゲるって事? そうは見えないけど?」
「おほほほほほっ、毛根は繊細ですから、あのようにピリピリされていては、いずれ早いうちに彼の元を去ってしまうでしょう! ああ見えてお若いようですが、――ふぅ」

 ホテルマンは、露骨に残念がる素振りで頭を振った。スウェンが嫌な予感に顔を歪ませ、ホテルマンとログを交互に見やっている。

「けれど安心してください。私の毛根は、あと百年は残りますので」

 ホテルマンはそう誇らしげに言い切ると、ニッコリと微笑んだ。そして、ふと身体を屈めると、エルにこう続けて耳打ちした。

「でも実を言うと私、楽しくて仕方がないのです」
「え、ハゲる話しが? お前、阿呆なの?」
「嫌ですねぇ、違いますよぉ。二人で内緒話しというのも、なかなか面白くて楽しいものなのだなぁと思いまして」
「はぁ、なるほど……?」

 内緒話の何が楽しいというのだろうか?