銃弾で壁や床が砕けたせいだろう。辺りには次第に、嫌な土埃が立ち始めた。

 エルは、テーブルを背に、恐る恐る向こうの様子を覗き込んだ。ワンピースドレスの女性が、四メートル先を横切っていく途中で、そのまま銃弾を受けて倒れてしまうのが見えた。床に崩れ落ちた女は、ピクリとも動かなくなる。

 途端に、腹の底から震えが込み上がった。心臓が嫌な音を立てて耳の奥で騒ぎ出し、死の恐怖がエルの全身を強張らせた。

 唐突に巻き込まれた戦闘に、どうしていいのか分からなかった。

 恐怖で胸が痛み、あっという間に手足まで広がった。どうやって呼吸すればいいのか分からず、知らず過呼吸になる。

 しかし、動けないのは遠くない死を意味する。エルは、育て親に教えられた言葉で自分を叱責した。気を引き締めて、時々途切れる銃声の嵐を聞きながら、再びテーブルからそつと顔を覗かせる。

 女の死体の向こうを凝視すると、サングラスを掛けた黒服の男達が、全ての人間を標的に銃を乱射している様子が確認出来た。ホテルの従業員も客も、見境なしに殺し続けている。