「うん。プログラムの意思については判断し難いけど、マルクの目的については、例えば仮想空間は造り直す事が出来ないから、そこから『メイン・プログラム』だけを移動させられるような、新たな仮想空間システムを作り直すという説はどうだろうか」

 かなり非科学的な仮説だけれど、とスウェンは曖昧に語った。

「人間の肉体を使う事によって仕上げられる『仮想空間』があると仮定すると、強力な『エリス・プログラム』を丸ごと移動させられる何かを、マルクは造っている、とかね」
「プログラムを移し替えるって訳か? 確かに面白い発想ではあるな。目的は分からねぇが、成長している人工知能も、最終的に手足を得て動き回るようになりたいとか考えているんだろうな」

 ログが投げやりに言って、鼻を鳴らした。

 その様子を見たスウェンは、苦笑を浮かべて「まぁ、君の反応は予想出来ていたけどさ」と指先で顎を触れ、話を続けた。

「プログラムの意思とやらが、自由になれる手足を求めているのかはさて置き、――つまりマルクが、そうしなければ叶わない目的が謎だからこそ、こちらもそれ以上の推測の立てようながないという事に変わりはない」

 今回の事件に関しては、動機とその目的が一番の謎だった。『仮想空間エリス』が秘めている可能性から考えると、絞り込むのはかなり至難となっている。