「お前の事だから、本当は教えないでおくつもりだったんだろ。妙に勘ぐられて、パニックを起こされても任務に支障をきたす。そんな判断を、お前は嫌う」
「うん、そうだったんだけど……エル君は、強い子だね。多分あの子は、最悪の状況まで考えていて、それでも弱音や我が儘一つ言わないんだろう。利口過ぎるのか、背伸びし過ぎているのか、どうも僕は、彼を簡単に切り捨てられないみたいなんだよ」
「お前が参ってどうすんだ。あいつがアリスと同じなら、一緒に最終エリアまで連れていけば脱出できるんだろ」

 スウェンは、すぐに言葉を返せなかった。

 もしエルの小さな身体が、先に取り返しのつかない大きなダメージを受けてしまったら。もしくは任務の遂行を第一優先ととなければならない状況が発生し、どうしても助けられないような事態に陥ってしまったら、と、スウェンの中では思考がループしている。

 冷酷無情な隊長として、スウェンは、これまで仲間以外の全てを簡単に切り捨てて来た。

 巻き込まれた民間人や、盾となった見知らぬ部隊の軍人。命乞いをする標的の友人や恋人の死を目にしても、痛む心はとうに失っていた。エルに対しても、同じ覚悟を持っているつもりだった。

 それなのに今、スウェンの心は不安定だ。エルの落ち着きぶりには、何故か警戒心すら覚える。

 後悔のないように行動するエルの姿勢は、最期の瞬間に易々と死を認めてしまう恐ろしさが潜んでいるようにも思えるのだ。その時が来てしまったら自分はどうすればいいのか、スウェンは未だに判断が付かないでいた。