人間の引きちぎられたような頭部だけが残っている光景は、スウェンの顔からも笑顔を失わせた。

 スウェンは、中を少し見ただけで、残っている死体の組織細部まで把握してしまい沈黙した。失敗作のように、支柱に取り残された日本人の男の皮膚だけが、まるで生きているように艶やかだ。

 天井には蛍光灯が所々設置され、弱々しく灯っていた。中央に佇む支柱からは、複数の電気ケーブルが伸び広がっていた。電気ケーブルの先にはも四つの黒褐色の機材があり、工場が稼働するような鼓動音は、これまでの支柱に比べて弱々しい音を立てていた。

 先に仕事を済ませてしまう事にして、スウェンは通信機器を設置し、現時点での状況を外に伝える事から始めた。

 通信に出たのは、現在ラボを指揮するハイソンという科学者だった。スウェンは、彼とは以前、擦れ違い程度に顔を見た事と、今回の一件で話し合っただけの面識があるばかりだったが、ログはメンテナンス通いで交友を持っている男だった。

 ログは、酒を飲む仲でもあるハイソンに挨拶はしたものの、話し合いについてはスウェンに任せ、二人のやりとりに耳を傾けながら暇を持て余した。支柱に使われたであろう男の顔をガラス越しに覗きこむと、生きていた時の恐怖や、死への苦痛も感じさせない穏やかな死に顔だった。

『一点、気になる事があります。セイジさんの位置状況が、数秒ほどこちらで確認出来ない事がありました。こちらにあるセイジさんの身体や脳波に異常は見られませんが……何かありましたか?』
「どうだろう。僕らは、このエリアで『ゲーム』に参加させられていてね。しばらく離れ離れだったんだ。セイジが戻って来たら訊いてみるよ」