「どのぐらい待ちくたびれたかというとね、沢山の数を数えても足りなくて、一人で物語を声に出して、でも聞いてくれる人はいなくて。あ、そうだわ、私、『彼』に会ったの。沢山の場所へ案内してあげて、いつか、あなたにそれを聞かせてあげたいって、ずっと思っていたの」

 少女は、一方的に話し続けた。自分よりも華奢で小さなエルを、もう一度抱きしめ、それからようやくエルをまじまじと観察し、小首を傾げた。


「あなた、ちっとも大きくならないのね。今も、私の方が大きいわ」


 その言葉に、エルは困惑した。忘れてしまうほど遠い昔に、こうして話した事があるような気がするが、よくは思い出せなかった。

「……君は、俺を知っているの?」

 思わず尋ねると、少女が、きょとんとした顔でエルを見た。

 不意に、空間に漂う空気の質が変化した。次第に、少女の青い瞳から愛敬の光りが消え、表情から意思が消えた。

「……私、どうして、あなたを待っていたのだったかしら」

 彼女はぼんやりと呟いて、エルの身体から手を離した。

 エルが見つめる先で、彼女の髪が少し短くなり、その容姿も一、二歳ほど若返った。胸の膨らみも長い頸筋も、途端に幼さを帯び始める。