身動きが取れなくなったエルは、出口へと伸ばし掛けた手が宙を漂った。視界の端で、ふわりと流れる金色の髪と、桃色のワンピースドレスと、レースの入った腰元の大きなリボンが揺れたのが見えた。

 何故か、理由も分からず背筋が凍りついた。癖のないブロンドから匂う甘い匂いに、頭の芯が痺れるようだった。

 自分が何か、大切な事を忘れてしまっているように思えて、――エルは、肩越しに彼女を振り返った。

 ドール人形と思うほど美しい顔をした少女が、こちらを見つめて微笑みかけていた。年は十八歳ほどだろうか。とても美しい西洋人の女性だった。

「……あ」

 思わず出掛けた言葉があったが、エルはそれを飲み込んだ。

 一瞬、写真越しで見たアリスと見間違えたのだが、彼女は面影が似ているだけで、別人である事に気付いた。

 アリスは、ストレートの髪ではなかったし、もっと歳も若かったはずだ。そして何より、少し釣り上がった勝気な青い瞳は、彼女がアリスとは違う人間である事を物語っているような気がした。

 目が合うと、少女は明確な意思のある微笑を浮かべた。年相応の女性には見えない、無邪気な子共のような笑顔だった。

「ずっと待ってたのよ、私。もう、待ちくたびれちゃうぐらい」
「え……?」