「大人は、色々と頭脳明晰なのです。簡単な謎解きのようなものなのですよ。目的に通じる扉の他は、行き止まりの小部屋みたいなものなのでしょう。先程の部屋に関しても、取ってつけたようだったでしょう?」
「まぁ、確かに赤い絨毯の部屋とか、ホテルの一室みたいな部屋とかあったけど、工場内って感じはしなかったな。ふうん、そんなものなんだ?」

 エルが感心すると、「そんなものです」とホテルマンが笑顔で答えた。

 二人は、それぞれが求める物を探して散策を開始した。ホテルマンは真っ先に駆け出すと、扉の絵柄も全く確認らずに開け放ち、躊躇することなく中へ突入て行った。

「私の生活必需品達! 今迎えに行きますよ!」

 エルは頭が痛くなったが、ホテルマンの事なので、何かあれば叫んで助けを求めてくるだろうと思い直し、しばらく放っておく事にした。

 エルは慎重に足を進め、扉の絵柄に猫が描かれていないかを探した。カップ、スプーン、本、自転車、フォーク……十分ほど歩いても、猫に繋がるようなヒントは出て来ない。

 気付けば、辺りはひっそりと静まり返っていた。

 ここは、こんなにも静かだっただろうかと考えたところで、エルは、連れ歩いていたホテルマンが騒がしいのだと思い至った。彼は落ち着きがない。先程まで、後方から彼が走り回る音と「高価な物なら、持って行ってしまいましょうか!」と、犯罪的な黄色い声を上げているのが聞こえていたから。

 彼はまた、どこか別の部屋にでも入ったのだろう。そして、少し興味深い部屋の中を歩き回って、高価な品でも物色しているのかもしれない。自分の所持品以上の品物を持ち出すと、大変な事になったりするような古典的なトラップでもあったら、どうしてくれるのだ。

 必要以上の危険は避けたいし、道徳的にも遺憾ではある。

 ホテルマンが盗みを働いた物は、後で確認しだい捨てさせる方向で考えつつ、エルは扉の絵柄の確認作業を進めた。