思い返すと、セイジは、自分に甘えを許さない姿勢を貫くエルの姿勢が、子を持つ父親としては少しだけ辛くも思っていた。出会った頃から気付いてはいたが、エルは時折、迷子になった子供のような表情を見せていた。

 そういえばログも怒っていたっけ、とセイジは思い出した。

 以前、エルが本当に迷子になってしまった時、人混みの波に遮られたエルは、必死に辺りを見回していた。一人だけ歩みを止める姿は目立ったから、スウェンとログも、すぐに気付いていた。

 あの時エルは、心細い顔で辺りに目をやって、見知った顔を探しているようにも見えた。泣いてしまうのではないかな、と感じたが、エルは開きかけた口を閉じると、きゅっと唇を結んで、一人歩き出したのだ。


――あらあら、あの子、迷子になっちゃったみたいだよ。背も低いしなぁ……僕が迎えに行ってこようか?

――放っておけ。自分で出来るってんなら、させとけばいい。……俺たちは、どうせゆっくり歩いているんだ。あいつも、すぐに追いつくだろ。

――ログ、もしかして怒ってるのかい? 珍しいね?

――煩ぇ。迷子になった時はな、『助けて』って言えばいいんだよ。そんな簡単な事も出来ねぇから俺は怒ってんだ。

――ふむ、なるほどね。ログの言い分も分からないでもないけど、助けを求められない心境が、彼にもあるのかもしれないよ。ねぇ、セイジ?


 セイジには、沢山の弟や妹達がいたから、家族に対して『助けて』なんて言える環境ではなかった。しかし、彼は自分に出来る事と、出来ない事が分かっていたから、助けを求める事に致して自尊心と闘った事は少なかったのだ。