首の後ろに悪寒が触れたような気がして、セイジは、女の子が座り込んでいた場所を振り返った。

 しかし、そこには誰もいなかった。闇の中に、ひっそりと彼女の声だけが木霊していた。

「お願い、どうか信じて。わたしは、あの子たちを助けたいの」

 声は、静かに泣いているようにも聞こえた。どこかで聞き覚えもあるような声は、彼が心配に思っている誰かが泣いているような錯覚に陥らせ、知らず胸が締めつけられた。

 ああ、一体誰だっただろう。

 セイジの胸に、焦燥感が込み上げた。未知に対する警戒と、手助けしたい気持ちが胸の中で渦を巻いた。

「私は、どうすればいい? 何も分からない事だらけだ」

 セイジは、頭上に広がる闇に問いかけた。

「アリスを、ここから連れ出してあげて。お願い……」

 遠くなる少女の声が、最後にこう答えて、プツリと気配が途切れた。

 セイジは一人、闇の中に残された。近くにあったはずの、小さな扉もなくなってしまっていた。

 しばらく立ち尽くした後、自分の胸に手を当てて目を閉じた。何故か、先程までそこにいた女の子と、エルの態度が重なってしまった。