「この先をしばらく進んだ場所に、あなたが失くした結婚指輪があるわ。そこには三つの扉が用意されているけれど、数字の『2』と書かれた方が正しい出口よ。そこを抜ければ、ゴールへ辿り着けるから」
「そうなのか、ありがとう。一つだけ腑に落ちない事があるのだが……結局、ここはなんだったのだろうか?」

 セイジは、不参加で勝ったような後味の悪さを覚えた。結局、彼は敵と遭遇する事もなく、女の子と悠長に話して丁寧な道案内まで受け、一つの汗もかかずにゲームを突破しようとしているのだ。

 改めて見回してみても、辺りは濃い陰りが目立つばかりで、伽藍としていた。まるで、創造される前の舞台の上に立たされているような気分だ。

 セイジは立ち上がり、遠くまで眼を凝らしてみたが、大きなクッションが二、三個目にとまっただけで、他には何もなかった。


「『わたし』がいるからよ」


 ふと、鈴の音のような声がセイジの耳朶に触れた。

「『彼』の力で保たれている、わたしが、この空間に強制的に介入してしまったから、中途半端に創造された舞台が崩れてしまったの」