「ちょっと待ってくれ。突然言われても分からないんだが」
「今は理解出来なくてもいいのよ。話せる時間は、限られているから。ただ、時は一刻を争う事だけは覚えていて。わたしという存在も、もう少しで消えてしまうから、きっと、これ以上の助けは行使できないわ」

 女の子の瞳に強い意思を感じ、セイジは、開きかけた口を閉ざした。

 彼女は、彼を真っ直ぐ見上げたまま「でもね」と言葉を続けた。

「どんなに小さな可能性だとしても、捨てられない望みが出来てしまったから、わたしは最期の力を使って、あなた達にアリスを届けるわ。だから、早く『エリスの世界』に辿り着いて」

 女の子はそう告げると、セイジの手を強く握りしめた。柔らかな肌は、ひんやりとしていた。

 セイジは眼を閉じた。一呼吸置いて、彼は小さく肯いて見せた。

「――わかった、君の言う通り努力しよう。状況はさっぱり飲み込めないが、……スウェンに話せば、なんとかなると思う」
「ありがとう。あなたは、とても優しい人ね。そして純粋で臆病でもある……女の子って、みんな本当は強いのよ。あなたは臆病なところがあるから、きっと女性に対して鈍いのね」

 彼女は、困惑を隠せないセイジの手を離すと、腿の上に手を添えた。