セイジは、しばらくその笑顔に見惚れた。綺麗な微笑みだと思った。どうしたら、こんなにも幸福そうに笑えるのだろう。この暗闇には、彼と彼女の他には、何も存在しないというのに。

 しかし、セイジはふと、小奇麗で可愛らしいその微笑みに既視感を覚えた。彼がこれまでに出会った事のある誰かの面影が重なりかけたのだが、考え出すと途端に、思い出せなくなってしまう。

 あれは、一体誰だっただろう。

 セイジは、少し考えた。一瞬、何者かの姿が脳裏を過ぎったような気がしたが、うまく記憶の倉庫から引き出す事が出来なかった。彼には女性の知り合いは限られているから、もしかしたら、ログやスウェンと付き合う中で出会った、美しい日本人女性の誰かに重ねてしまったのかもしれないが……

 その時、女の子の華奢な手が、悩んでいたセイジの手を握り返した。

「どうか、お願いね。アリスには、これ以上の迷惑はかけたくないの。わたしは『エリスの世界』で待っているから、きっとあの子を連れ出してくれるって約束して。わたしが、あの子を近くまで届けるから、間に合わなくなってしまう前に、早く辿り着いて」