近づいてみて、セイジは、大人びた女の子の幼い眼が正常でない事に気付かされた。彼女の瞳孔はすっかり開いておらず、近くで手を振って見ても反応しなかった。

 この子は、目が見えていない。

 セイジは、少なからずショックを覚えてしまった。

「君は、目が見えないのか。その、申し訳ない……」
「優しい人なのね」

 女の子は、声のする方向で、人間の位置を把握しているらしい。セイジの顔を正面から見つめ「ありがとう」と続けた。

「わたしはね、ずっと待っているのよ」
「待っている……?」
「約束の刻を、こうして待っているの」

 彼女が小さく首を傾げた拍子に、艶やかな長い髪が、サラリと音を立てて、スカートの上にこぼれ落ちた。

「あなたの事も、待っていたのよ。伝えられる唯一の機会だったから」

 少女の視線が、宙の上を僅かに滑った。伏せられた睫毛が、日本人にしては明るい色をした大きな瞳に、大人びた女のような陰りを落としていた。

「あなた達が求めている女の子は、無事よ」
「君は、アリスを知っているのか? あの子は、今どこに――」

 急ぎ言い掛けたセイジの顔辺りへ、女の子が小さな手をあてがった。